:この記事は以前、インターネット界隈で活動する仲間と共同運営していたメディアで掲載していたものです。

そちらでの活動が節目を迎えたことと、私のファッション関連の情報発信は当サイトで統一したいという思いがあったため、当サイトに引き取りました。

以前のメディアでコメントやイイネをくださった方々、本当にありがとうございました。その方々のおかげでいつも記事作成に没頭できています。

この「服を着て、買って、できる限り長く愛してもらうための話」シリーズは全12話を予定しており、今後は当サイトで公開予定です。暖かく見守っていただければ幸いです。

今回はそんなシリーズの第2話。疎まれがちだけど、実は高品質の証でもあるあの糸のこと。

今あなたが着ている服は、どんな基準で選んだものだろうか?

「少しでも痩せてみえるように」
「動きやすくリラックスできるように」
「おしゃれに、モテるように」

などなど、人それぞれいろんな基準があると思う。

 

もっと具体的にすると、

「フードは取り外ししたい」
「ベルト付きだと嬉しい」
「季節問わず着れるオールシーズンものがいい」

なんて理想もあるかもしれない。

 

アパレル販売員をしていた頃は、そういう色んな理想を聞いてピッタリなものを紹介するのが楽しかった。

そのせいか記憶にとてつもなく残っているのだけれど、服=ポケットが必須 という方はすごく多い。

たしかに、仕事の時はボールペンを、普段着ならスマートフォンを入れて手ぶらで動ける。

あって嫌だなと思う人はいない。ないと嫌がる人もいる。それがポケットだ。

 

だからこそ声を大にして伝えたい。

実は アパレルメーカーはわざわざ付けたポケットを縫って塞いでお客様に渡す ことがある。

ポケットを使わないならそのままで、使うならお客様自身で糸を切ってほしいのだ。

「なんでそんな面倒なことしちゃうの……」なんて思った方こそ、ぜひこのまま読み進めてもらいたい!)

 

まず、お客様自身で切ってほしいと伝えたこの糸にはと「仕付け糸」いう名前が付いている。

仕付け糸は他よりもゆる~く作られていて、手でぶちっとちぎることも可能なほ柔らかい糸だ。

主に大体の形を作るときに使われて、しっかりとミシンで縫った後に外される。

―― つまり、漫画やイラストでいう「下書き」みたいなものだ。

 

ただ、メーカーによっては服ができあがった後にあえてこの「仕付け糸」を使う。

使われる場所はポケットだけでなく、ジャケットやスカートのスリット(切り込み部分)やコートやマフラーの品質表記タグなどもある。

ここからは どんなところに、なぜ使われているのか を話していこう。

 

まずは例としてあげまくっているポケット。

ポケットの場合は入り口を塞ぐように縫い付ける。

こんなことをしている理由はたった1つ。型崩れ防止のため だ。

 

これをしておけば、着る前に重力に負けてダラっとすることもない。

ポケットを使わない人であれば、そのまま外さないで使ってくれれば圧倒的に長持ちする。

くわえて、運送中のダンボールや倉庫などで他のものと引っかかり、破けたり痛んだりなんて事態も防げる。

 

なかにはデザイン的にふさがっている「飾りポケット」もあるのだけれど、服の内側(裏)を確認すればすぐに見分けられる。

ものが入る「袋」の部分があるなら、それは仕付け糸で入り口をあえて塞いであるポケットだ。

 

次にコートやスカートの後ろによくあるスリット(切り込み部分)。

こちらの場合は×印に縫ってあるので分かりやすい。着る時はぜひ取ろう。

 

これは、お客様が身につける前に変なシワがつかないようにするための「しつけ糸」だ。

このしつけ糸が付いているようなコートやスカートは、基本的にはクリーニングで手入れをするような代物だ。

つまり、お客様が「いざ着るぞ」というタイミングまでショッピングバッグやクローゼットで待機する可能性がとても高い。

そんな時にこのしつけ糸さえついていれば、いくらほかの服と一緒に保管されようと、変なシワがつくことはない。

お気に入りの服をおろす最高の瞬間を、より素敵にするための「しつけ糸」なのだ。

ただ、この仕付け糸をとらずに着てしまうと本来の動きやすさやシルエットではなくなる。

ポケットの場合は使わないならそのままでも型崩れ防止にいいけれど、スリットに関してはメリットがない。ぜひ、取ってもらいたい。

(そこそこ良い値段のジャケットやタイトスカート、トレンチコートはほぼついているから、ぜひ見て取り外してくれ……!)

 

参考:http://zozo.jp/shop/urbanresearchrosso/goods-sale/32970790/?did=57278410

最後に、品質表記タグ。写真&リンク先のコートも袖口についている。

特に写真&リンク先の「HARRIS TWEED(ハリスツイード)」タグは有名だ。

高めのコートの袖口やマフラーなどで見かけたことはないだろうか?

 

ただ、品質表記タグと聞いて「やば、外さないと!」って思うのは割と服マニアの方々だ。

というのも、こだわりの強い品質表記タグになればなるほど、ロゴが入っていたり刺繍がされていて単純に可愛い。

○○周年記念デザインとかもあるし、パッと見お洒落で、なんとなく外さなくても良さそうなのだ。

そのせいか、街中でも付けたまま着ている人をたくさん見かける。

 

でも、もう1度いうけどこれは品質表記タグ。

もっと言えば「品質保証ラベル」なのだ。

つまり「この服はうちのブランドが本気で作った一級品ですからァ~~!」というメーカーのアピール。

スーパーの野菜についている「このトマトは農家の鈴木さんが無農薬で作りました」なんて宣言と一緒。

 

だから、その服本来のデザインを活かすならぜひ取ってあげてほしい。

タグも込みで気に入ったと言われたらどうしようもないのだけれど……。

でも、よく見ると簡単に外せるように端っこしか縫われていない。

メーカーやデザイナーの意思を少しでも気にかけてくれるなら、その服の本来の姿を見てあげてほしい。

 

余談だけれど、ブランド服の買取査定ではこの品質表記タグの有無で価値が変わる。

先ほども伝えた○○周年記念デザインであれば、一部のマニアからすればプレミア扱いを受けるだろう。

ハイブランドの場合は、偽物と区別をつけるために隠しロゴやICチップを入れていることもあるためだ。

 

本当なら「仕付け糸」の存在は販売員がお買い上げのタイミングでお伝えする。

けれど、服をお渡しする全てのお客様に間違いなく伝えているかと言われると微妙なところだ。

 

現場ではもっと臨機応変じゃないとやってられない。

こういう「仕付け糸」の説明よりも、早いレジ打ちや静かな接客が求められる場面もたくさんある。

また、この仕付け糸の話は「アパレル業界では当たり前」でもあるから、お洒落なお客様にはあえて伝えない場合もある。

(「そんなの知ってるわ!」って不快にさせちゃうこともある)

 

ただ、当たり前とはいえ家庭科の授業(義務教育)では教えてくれない。

それに今は古着屋やフリマアプリ、通販サイト経由で服を買う方も多い。そういう方には伝えたくても伝えられない。

このご時世、圧倒的に知る機会が少ないのだ。

 

だからこそ、この記事と出会ってくれたあなたには心にとめてもらいたい。

あなたの家のクローゼットには「不思議な糸がついている服」はないだろうか。

それは、気に入ってもらえたその服を少しでも長く綺麗に着てもらうために、あえてアパレルメーカーが付けたものかもしれない。

もしよければ、少しだけ時間を使って見てあげてほしい。

 

 

:全12話 服を着て、買って、できる限り長く愛してもらうための話
 

  1. 機械がコンビニ店員を勤めるこの時代に「アパレル販売員」はいらないのか
  2. 着る前にとってほしい。仕付け糸は最高の状態で届けるためのものだから

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中馬 さりの

GALLERIA EDITOR
1992年、東京生まれ。文化女子大学にて服装学部にてファッションビジネスを専攻しながら、アパレル販売員とハイブランドの査定スタッフを経験。 卒業後はアパレルメーカーで広報を担当。2016年からフリーライターとして執筆業を開始。多数のメディアへ寄稿をする。 いまは大阪と東京の二拠点生活を満喫中。好きなものは夜ふかしと旅とお洋服。