「長靴を履いている女性を見ました。理解できません。おしゃれだと思っているのでしょうか」

某匿名掲示板でこんな書き込みを見つけたのは、次の記事の参考になる情報を探している最中。

その方は本当に長靴の何がいいのかわからず、意見を求めている様子だった。

 

「おしゃれな長靴(レインブーツともいう)が今はあるんですよ」

「機能性も見た目も優れているものは人気です」

 

そんな丁寧な回答に対し、質問の主は

「気になっている女性が長靴を履いていた。変に指摘しないで済んで助かった」

と喜んでいた。

 

その人にとって、レインブーツはおしゃれではなく理解できないものだったのだろう。

それでも理解したくて、あわよくば好かれたくて。どうにか正解を探した結果が、先ほどの書き込みだ。

行動自体は褒められるもので、きっとハッピーエンドなのだと思う。

 

ただ、それを見てなんだかグッと掴まれたようにキリキリと身体の奥が傷んだ。

そもそも服って誰かから褒められなければいけないものなんだろうか。

仲良くなるには無理矢理にでも褒めなくちゃいけないものだったんだろうか。

 

私が生まれたのは東京とは名ばかりのド田舎。

ここでは大人も子供も洋服を買うならダイエーだった。

まれに有名ブランドがだしている水色のワンピースを身につけている子もいたけれど(それは都心の方まで買いに行った勝ち組を意味していた)、ほとんどはダイエー印の真っ黒なパーカー姿。

水色か真っ黒か。この東京の僻地にはどちらかしかなかった。

 

そんな中、私が憧れたのは各おとぎ話のお姫様達が着ているファッションだった。

白雪姫はタンポポのような明るい黄色のスカート。セーラームーンは真っ白なワンピース。

私が着ていたのはダイエーで買ってもらった真っ黒なパーカーだったけれど、頭の中はとてつもなくカラフルで華やかだった。

 

カラフルな理想と真っ黒な現実がかみあったのは、高校生になりアルバイトをし始めたころ。

初めて自分の好みで選んだのはピンク色が可愛い花柄のワンピース。店員さんはこれまたピンクの紙袋に綺麗に包んで入れてくれた。

平日は学校、土日はアルバイトに明け暮れていたから、普段着を身につけられる時間は思うよりも少ない。

それでもクローゼットを開けるたびに幸せな気持ちになったし、幸福度で言えば理想的な出費だった。

 

ただ、そのワンピースは地元では浮いていた。

レースやリボンの飾りは可愛らしかったけれど、畑の中心を自転車で移動する姿はちぐはぐだった。

 

だから、

「なんだか結婚式みたい」

「スカートが短くて危なっかしい」

「あなたが好きなものってちょっと変ね」

なんて言われ始めるのにそう時間はかからなかった。

 

もちろん最初は傷ついた。

「自分で選んで、買って、身につけているのに、わざわざそんな意地悪を言うなんて!」

ただ、傷つけば傷つくほど諦めもついた。

どうせ真っ黒なパーカーを着たところで「無頓着」だとか「男の子みたい」なんて何かしら文句は言われる。

それなら好きな恰好をして、自分に自分で「可愛い」と言ってやればいい ―― 我慢していた期間が長かったからこそ、そんな勝気な気持ちが芽生えていた。

 

その後、服への気持ちをこじらせて服飾系の大学へと進学する。

大学には憧れた以上にいろんな色や形、雰囲気のおしゃれな人達がたくさんいた。

 

地元で真っ黒なパーカーを着ていたころ。

私の頭のなかはびっくりするくらいカラフルだったけれど、世の中にはそれ以上に綺麗なものがたくさんあった。

 

「長靴を履いている女性を見ました。理解できません。おしゃれだと思っているのでしょうか」

何気ない言葉だ。

でも、見かけた瞬間、黒いパーカーのなかに押し込められていたときと同じ気持ちが口の中に広がった。

 

服には色んな形がある。

色があって、雰囲気がある。

理解できるとかできないとか、おしゃれかどうかとか、そういう次元の話じゃないんだ。

 

変だと思うなら変でいい。

素敵だと思うなら素敵でいい。

どう思ったっていいからこそ、他人の服に口出しする権利は誰にもない。

物事はもっと自由で、シンプルだ。

 

自分が素敵だと思うものを理解してもらえないのは辛い。

それに加えて「変」とか「ダサい」とか「気持ち悪い」なんて言われれば傷つく。

けれど、浮いているとか一般的でないとか、よくわからない物差しをあてがわれて背筋を丸めて生きる必要はない。

1番不幸せなのは自分が素敵だと思う恰好をできない世界だ。

 

27才になった私はお気に入りのヒールを履いて街を歩く。

結婚式みたいなサテン素材のスカートもいい感じにコーディネートして着るし、花柄のワンピースだって身につける。

それを「素敵」と言ってもらえたらそりゃあ嬉しいけれど、「変だ」と言われてもその人の価値観だと思う。

周りがどう言おうと、私は私が好きで素敵だと思う服を着るから関係ないのだから。

 

服装についてとやかく言われる機会は多い。

でも、大切なのはあなたがそれを好きかどうか。ただそれだけだ。

どうか、誰にも邪魔されず好きなファッションを楽しむ方がひとりでも増えますように。

 

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中馬 さりの

GALLERIA EDITOR
1992年、東京生まれ。文化女子大学にて服装学部にてファッションビジネスを専攻しながら、アパレル販売員とハイブランドの査定スタッフを経験。 卒業後はアパレルメーカーで広報を担当。2016年からフリーライターとして執筆業を開始。多数のメディアへ寄稿をする。 いまは大阪と東京の二拠点生活を満喫中。好きなものは夜ふかしと旅とお洋服。