レディースファッションブログGALLERIA(ガレリア)代表の 中馬さりの(@chuuuuuman)です。
このサイトを運営し始めて、もうすぐ1年。
ほとんどの方は検索経由でこのサイトと出会ってくれています。
そこでね、たま~に「服装 心理学」とか「ファッション 心理学」って検索してくれている方がいるんです。
これ!!! 私、大学でわざわざ学ぶほど大好きな学問なんです!
あまりに嬉しすぎたので、この記事では服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)とはどんなものなのかを紹介します。
その中で、もっとも基本的な例としてマズローの欲求5段階説を服装学的観点から考察。
現代の市場に服装に関する心理学がどう生かされているかについても書いたので、楽しんで読んでもらえれば嬉しいです!
服装・ファッションに特化した心理学の分野

衣類を身につけることや「おしゃれをする」という行動と、人の心の動きの関係性に特化して研究・活用する心理学 があります。
ようは心理学のなかでも衣類や見た目に関することに特化したもの。
アルバート・メラビアンというアメリカの心理学者が発表した論文によると、第一印象を決定要素は視覚情報55%・聴覚情報38%・言語情報7% とのこと。
ファッション――つまり見た目の部分は第一印象の55%をしめる視覚情報です。服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)ではそこを切り取ってより深く学んでいきます。
ちなみに、こういった服装・ファッションに特化した心理学は被服心理学などと呼ばれることもあります。英語で言えば fashion psychology です。
服装・ファッションに特化した心理学的観点では「人が服を着る理由」は5つに分類できる

服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)がどういうものなのかは先ほどお話した通りなんですが、そうは言っても「具体的には?」って感じですよね。
ということで、ここからは具体的に どんな理論をもとにどんな考察をするのか をご紹介していきます。

服装・ファッションに特化した心理学を学ぶときに、まず真っ先に話題にあがるのが「マズローの欲求5段階説」です。
マズローの欲求5段階説そのものは「服装」に限らず心理学の分野で有名なので、この図を見たことがあるという方も多いと思います。
基礎の基礎であり、それでいて面白いので今回ピックアップしてみました。
というのも、マズローの欲求5段階説をベースに服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)では「人が服を着る理由」は5つに分類できる と言われているんです。
服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)的な観点でマズローの欲求5段階説を見てみよう

ではでは、ここからは服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)的な観点でマズローの欲求5段階説を見てみましょう!
まず、マズローの欲求5段階説とは、1943年に心理学者のマズローが発表した「人間の動機づけに関する理論」という論文に基づく理論です。
このマズローの欲求5段階説では、人間が持っている全て欲求を5つの階層に分けて解説しています。
5つの欲求とはこちらの通り。
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 所属と愛の欲求
- 承認の欲求
- 自己実現の欲求
1~5の欲求はそのまま優先順になっていて、1から現れます。
1がある程度満たされると次は2、その次は3といったように順番に求めていきます。
どの階層の欲求をもち、それがどれだけ満たされているかでその人の幸福度は増加する と言われています。
そして重要なポイントなんですが、この欲求5段階説を発表したマズロー的には必ずしも 欲望=悪ではない んです。
欲求は我慢して抑えるものではなく、むしろ引き出し理解した方が健康で生産的な生活につながる という考え方なのです。
(だから例えば「〇〇な服装がしたい!」という願望があったとして、その気持ち自体は悪じゃないわけです)
ちなみに、ここ最近では5つ目の「自己実現の欲求」は2つの階層に分けて考えられています。
- 超越的でない自己実現欲求
- 超越的な自己実現欲求
なので、厳密にいうと「マズローの欲求6段階説」と表現した方が正確ですね。
ここからは6つの欲求に関して服装学的な視点を交えつつ解説していきます。
1.生理的欲求
まず1つ目は 生理的欲求 です。
生理的欲求とは人の最も根源的な欲求と言われています。
- 酸素
- 食物
- 飲料
- 性
- 睡眠
- 冷暖
といった生命維持に関わるものを欲する気持ちが生理的欲求です。
服装学的な視点でいえば、以下のような欲求がこれにあたります。
- 冬は寒いから暖かいダウンコートがほしい
- 夏は暑いから少しでも涼しく過ごせるインナーがほしい
こういうのが服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)における生理的欲求。つまりファッションの最も根本的な存在理由です。
2.安全の欲求
2つめは 安全の欲求 です。
飢えや睡眠といった生理的欲求がそこそこ満たされた後は、この「安全の欲求」を求めます。
- 身の安全を実感したい
- 他人への依存を経ちたい
- 保護されたい
- 不安や混乱から自由になりたい
というのが安全の欲求です。
例えば、真夜中の真っ暗な学校ってちょっと怖いイメージがありませんか?
これは暗闇などに対する防衛本能の表れ。安全の欲求が刺激されたことによる心の変化です。
服装学的な視点でいえば、以下のような欲求がこれにあたります。
- 家では楽したいからスウェットで過ごしたい
- 外で走っても足に負担がかからないスニーカーがほしい
こういうのが服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)における安全の欲求です。
マズロー的には生理的欲求と安全の欲求はとても強いものとしています。
つまり、服装学的な視点で言えば、ここまでのファッションは安全ば生活をするための必需品と言えます。
3.所属と愛の欲求
3つめは 所属と愛の欲求 です。
生理的欲求と安全の欲求がある程度満たされると、次は「所属と愛の欲求」が現れます。
- 孤独や迫害をさけたい
- 不安定な将来から避けたい
- 家族や恋人、友達、同僚、仕事仲間などグループに所属したい
- 周囲から求められ愛されたい
こういった気持ちが「所属と愛の欲求」です。
服装学的な視点でいえば、以下のような欲求がこれにあたります。
- 就職活動で浮かないスーツがほしい
- 志望した学校の制服を着れるのが嬉しい
- みんなが持っている流行りの服がほしい
- モテるファッションをして可愛いと言われたい
- 憧れのモデルさんや女優さんとお揃いのお洋服がほしい
いや~~~、こういうのが服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)的な「所属と愛の欲求」なんですが、めっちゃわかる!!!
とくに就職活動中とか「私服でいいですよ」って面接でも何となく黒髪にしたり暗いカラーのスーツを着ちゃったりしませんでしたか? 私はしました。
これは迫りくる社会人生活に馴染んでいい結果が欲しいっていう所属欲求の表れなんですね。
4.承認の欲求
4つめは 承認の欲求 です。
所属と愛の欲求が満たされると、次は「承認の欲求」が芽生えます。承認の欲求は「尊厳」や「自尊心」の欲求とも言われることがあります。
というのも承認の欲求は以下の2つに分類できるんです。
- 自己の自己に対する評価の欲求:強さや熟達、独立といった自分へ求める自尊心の欲求
- 他者からの評価に対する欲求:評判や信望、地位、名誉など周囲へ求める欲求
これらが満たされるとシンプルにいえば 自分は世の中に役立っているんだ って思えるようになります。逆にいえば、これらが満たされないと役に立っていないと感じ、劣等感や無力感を抱きます。
服装学的にはこういう承認の欲求が理由でモノを欲する状況を指摘することがあります。
- 利便性が悪くても皆が知っている有名ブランドのものがほしい
- 中身よりもブランド名でプレゼントを選ぶ
こういったのは承認欲求による取捨選択と言えます。
5.(超越的でない)自己実現の欲求
5つめは (超越的でない)自己実現の欲求 です。
まず、自己実現の欲求とは潜在的に持っているものを開花させて、より自分らしく生きたいと思う欲求のことです。
ようするに、より自分らしくいたいと思う気持ちのこと。
どれだけ下位の欲求が満たされても、人は自分にぴったりのことをしていないと次の不満がでてきます。
自己実現の欲求についてマズローはこのように残しています。
自分自身、最高に平穏であろうとするなら、音楽家は音楽をつくり、美術家は絵を描き、詩人は詩を書いていなければいけない。人は、自分がなりうるものにならなければいけない。人は、自分自身の本性に忠実でなければならない。このような欲求を、自己実現の欲求と呼ぶことができるであろう。
出典「人間性の心理学」
これをファッションに置き換えて考えると、服を通じて幸せを得るには自分が本当に自分らしいと思える格好をするしかない わけです。
自分以外の何か他のものを基準にして満たせる欲求もありますし、それが悪いことというわけでもありません。
ただ、最終的な幸福感を得るには自分自身の感覚がすごく頼りになる ということですね。
6.(超越的な)自己実現の欲求
6つめは(超越的な)自己実現の欲求 です。
これは5つめの自己実現の欲求の先として、追記される形で報告されました。
「超越的でない自己実現」と「超越的な自己実現」の明確な境目は「至高体験」の有無です。
マズローは至高体験を「注意を完全に保持するに足るような興味深い事柄に魅惑させられ、熱中し夢中になること」と定義しています。
つまり、2つの違いをまとめると以下のような形になります。
- 超越的でない自己実現者:自己実現はしているものの熱中し夢中になるような至高体験はほぼなし
- 超越的な自己実現者:至高体験を持つ自己実現者
補足:欲求の順番は入れ替わることもある

余談ですが、ご紹介した マズローの欲求5段階説の順番は人によって入れ替わる ことがあります。
マズローの欲求5段階説をGoogleで検索してみると、ほぼ100%こういう図がでてきます。
ただ、この図は学問として伝えるために後から作られたもので、マズローが考案したものではないそうです。
そのため、パッと見この図だと下位の欲求を満たさないと上位の欲求がでてこないかのように感じてしまうかもしれませんが……。
実際、5つの欲求の優先順位は人や環境によって入れ替わることがあります。
ファッションで例をあげるとすれば、以下のような方たち。
- まだ寒いのに春物の服を「先取り」と言って着ている人
- 時間をかけてでも髪やメイクのセットを完璧にしたい人
- 歩きにくいかもしれないけど自分らしいヒールの高い靴を履きたいという人
こういったおしゃれが大好きで仕方がない人達は、利便性や安全性といった下位の欲求よりも自己実現の方が優先順位が高くなっています。
つまり、生理的欲求よりも自己実現欲求が強い んですね。
こういった上位の欲求が下位の欲求より勝る場面はいろいろありますが、1つとして「満たされるはずがない」と思う時があげられます。
例えば「春を先取りしてるんだから寒くて当たり前でしょ!」って心の底から思っていたとしたら、通常は生理的欲求が刺激されるような寒さであっても自己実現の欲求の方が優先されます。
「この欲求は満たされなくても当たり前」と思えるときには、下位の欲求が満たされなくても上位の欲求が現れる可能性があるのです。
(基本的には下位の欲求から現れるのですが、補足として知っておいてもらえると今後がわかりやすいかもです!)
服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)的な「人が服を着る理由」を刺激すればファッションで幸せになれる?!

- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 所属と愛の欲求
- 承認の欲求
- 自己実現の欲求
人は上記のどれかを満たすために服を選び、着ている――というのが、服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)的な考え方。つまり「人が服を着る理由」です。
これらが満たされなければ「これじゃない感」を抱くことになります。
逆にいえば、抱いている欲望を満たす服を着ればめちゃくちゃ幸せに思える わけです。
この心の動きを学問として学び、理論的に解明しようとするのが服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学) です。
服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)がちょっとだけブラックに利用されている場面

ということで、服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)の1つの考え方としてマズローの欲求5段階説をご紹介しました!
最初にも言いましたがあくまでこれは1例であって、服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)で使われている理論は他にもあります。
ここからは 実際にファッション業界で使われている服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学) をご紹介していきます。
なんだかしたたかな印象になってしまうかもしれないですが、そんなこと全然ないですからね!
「あ、これ感じたことあるかも……!」なんて面白く思ってもらえたら幸いです。
1.選んだファッションから欲求を分析・刺激して好かれる&購買意欲を高める
まず1つめは 選んだファッションから欲求を分析・刺激して好かれる&購買意欲を高める という方法です。
先ほどご紹介したマズローの欲求5段階説では5つの欲求をご紹介しました。
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 所属と愛の欲求
- 承認の欲求
- 自己実現の欲求
繰り返しますが、人は上記のどれかを満たすために服を選び、着ている――というのが服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)的な考え方です。
そのため、アパレルメーカー視点からすれば、お客様がどんな欲求をもって服を探しているのか理解すれば、より求められる服を作ることができます。
例えば、登山ウェアのショップにお客様が求めるのって第一に安全さ(安全の欲求)だと思うんです。
そこにプラスして、初心者の方がお客様に多いなら登山仲間と並んでも悪目立ちしない(所属と愛の欲求)スタンダードな色やデザインが好かれると思います。
登山ブームにちなんで始める新規のお客様を狙うなら、今はやりのタレントさんに着てもらいPRしたり、有名ブランドとコラボしたり(承認の欲求)するのが効果的かもしれません。
ある程度のウェアも持っている登山愛好家を狙うなら、オーダーメイドで世界で自分1つだけのオリジナルアイテムの方がウケそう(自己実現の欲求)ですよね。
こんな感じで、服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)を使うとターゲット層のもつ真相的な欲求をもとにファッションを考えられます。
2.ファッションにもたれるイメージを利用して「なりたい自分」になる
2つめは ファッションにもたれるイメージを利用して「なりたい自分」になる というもの。
一般的にみんなが抱きがちなイメージってありますよね。
- スーツに眼鏡の女性なら仕事ができそう
- シフォンのスカートにふわふわのニットなら優しいイメージ
- ショートヘアで長身の女性なら走るのが早そう
みたいなやつです。こういう一般的なイメージに自分の見た目を寄せることで、周りの印象をちょっとだけひっぱることができます。
もちろん、ちょっと服を着替えたからって性格が変わったり運動ができるようになったりすることは基本的にはないです。
ファミレスの制服を着るだけで誰でも仕事ができるようになるんだったら、研修なんて言葉はこの世から消えますからね!
でも、「どうせ無理だ」と思われている状況と「大丈夫、できるよ」と思われている状況だったら、後者の方が圧倒的に自分の力を発揮できます。
もっと具体的にいえば、カッコいいスーツをピシッと着たら背筋が伸びるし、仕事への意欲が増します。
おろしたてのレインブーツがあれば、雨の日でも機嫌がよくなってちょっとだけ周りに優しくなれる ―― そういう経験ってありませんか?
そんな風に 自分のイメージをコントロールするのが服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学) です。
服はもっと便利なもの。自分の欲求をファッションで叶えよう

今回の記事では、私が大学で学んでいた服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)についてお話しました。
こういう学問としてのファッションの話ってなかなか前にでないけれど、すごくワクワクしませんか?
もちろん服装・ファッションに特化した心理学(被服心理学)の世界は奥深くて、私よりも知識のある方たちが今も活躍しています。この記事でご紹介したのはほんの一部です。
もっと知りたいと思った方はこういう本を読んでみても楽しいかもしれません。
どちらも私が学生の頃にゼミの教授におすすめしてもらって読んだ本です。
ファッションは「衣食住」の1つ。生きているうえで欠かせないものです。
だからこそより楽しく、幸せになる手段として活用していきましょう!